塩見岳バットレス北稜

冬季アルパイン

平成9年理学部卒 真達 慶次郎

山行概要

日時:2023年12月28日~30日

メンバー:真達 慶次郎、若月稜斗

行程:

  • 28日:冬季ゲート(5:16)→夏季ゲート(6:35)→鳥倉登山口(7:21)→三伏峠(10:08)→塩見小屋(13:03)→キャンプ地(13:08)
  • 29日:キャンプ地(6:02)→A沢出合(6:55)→北稜取り付き(8:21)→塩見西峰(14:08)→東峰(14:20)→キャンプ地(15:24)
  • 30日:キャンプ地(6:20)→三伏峠(8:50)→鳥倉登山口(10:17)→冬季ゲート(12:13)

記録

塩見岳バットレスと呼ばれる塩見岳北面の岩場を登ってきました。

私が初めて登った南アルプスは高3の夏、この塩見岳です。その時見た北面の垂直な岩壁はなかなかの衝撃でした。そして、大学生となり、色々な山を登りましたが、塩見岳北面はほとんど話題にならない岩場で、いつか自分の記憶からもすっかり薄れてしまいました。その後、40代半ばを過ぎた頃から、有名なルートより、誰も知らない、登られていない、美しいラインを登ってみたいと思うようになり、2020年に農鳥岳西面、2021年に聖岳西面とほとんど登られた記録のない、でも素晴らしい場所を見つけて若月と登り、次の目標を考えていると、あの塩見岳北面のことを思い出しました。

調べてみると、やはり登られた情報が無く、何よりゴールが自分にとってメモリアルな塩見岳の山頂。いつもこの手の登山に付き合ってくれる若月を誘ってみると即OKの返事。

娘たちにも年末に家を留守にする了解をもらって、久々の本格登山に行ってきました。

12月28日(晴れ)

鳥倉林道の冬季ゲートから出発。

今回もパートナーは若月、いつもお世話になります。

舗装道路を2時間歩いて、ようやく登山口。

冬の山はこれが厄介です、、

ひたすら登って、塩見岳が見えてきました。

久しぶりの冬装備+クライミング用具の重荷でしたが、この景色で元気がでます!

森林限界を越え塩見岳が間近に、

稜線から風下側に逃げた場所に絶好のスペースを見つけ、テントを張りました。

晩飯は肉と若月家で収穫した野菜たっぷりのスープです。

「重かったんじゃない?」

と聞いたら、

「トレーニングになりますから、」

とのこと、今回がトレーニングって、本番はいつなの??

12月29日(晴れ)

翌朝、夜明け前に出発。

夜明け前の塩見岳。

暗闇の中、ひたすらC沢を下ります。

A沢出合、いよいよスタート。

しばらく歩くと氷瀑が出てきました。

氷瀑は小さいのでロープ無しで登ります。

ウォーミングアップにちょうどよい感じでした。

氷瀑の下に大きな穴が、

中はどうなっているんだろう?

でも落ちたらダメだよ、

氷瀑地帯を過ぎると雪崩地帯をラッセル。

地図で山頂に突き上げる北稜のラインを確認。

右の岩から登ることに、

岩場を左から回り込み、ハーケンを2枚打ち込んでスタート。

フォローの若月。

難しくはないですが、支点が取りにくく、脆くて嫌な感じ、

安定した場所で、一旦、ロープを片付けます。

上部の岩壁を目指します。

ラッセルが深い・・

ちょっとした岩場はロープを出さずに越え、

しばらくは雪稜と、

岩稜の繰り返し、

だんだん急傾斜になり、

この岩場から再びロープを出しました。

難しそうではなく、灌木で支点が取れるので、育成も兼ね若月からリード。

続くピッチ。

ほぼ垂直で、支点が取りにくく、岩も脆いので、ジワジワ登りました。

核心部を抜け、思わず「やったぜ!」と若月にピース。

次は若月がリード。

その次は私と交互にリードしました。

ここを抜けると山頂はすぐ近くに見えました。

最後はコンテで登り、山頂を目指します。

バットレスを抜けました。

ずっと北面を登っていたので、日差しが眩しい!

塩見岳バットレス完登!

上から見下ろすと、よくあんな所を・・と思ってしまいました。

東側にも山頂があるので、そちらへも。

こっちの方がちょっとだけ高い。

若月も、

やったね!

今日は風か弱く、日差しが暖かいので、山頂でゆっくりできました。

冬山の山頂では寒くて写真だけ撮って即下山が多いので、ありがたいです。

南アルプス北部の山々。

塩見岳は南アルプスのちょうど真ん中、南アルプスがよく見えました。

暖かい日差しを浴びながら、のんびり下山。

無事、テントに帰り着きました。

間ノ岳と農鳥岳の夕焼け。

農鳥岳滝ノ沢が正面に見えました。

3年前のちょうど今日、登っていたことを思い出します。

そう言えば、あの時はずっと背後に塩見岳が見えていました。

夕日を浴びる塩見岳。

日没。

妻があの世へ旅立ち、もうすぐ2年です。

初めの半年位は何もやる気がでず、

「子供たちが一人立ちしたら、さっさと死のう、」

などと考えていました。

その後、元気を出そうと引きこもりの次女と山歩きをはじめ、こうして本格的な登山もできるようになり、今は生きることがとても楽しいです。

山の不思議な力と仲間達の存在は本当にありがたいと感謝しています。

今夜も穏やか。

若月と遅くまでウイスキーを飲みながら語り合いました。

12月30日(晴れ)

翌朝、

テントを撤収し、塩見岳とお別れ。

今回は最終日まで天候に恵まれました。

2023年の最後にこんな登山ができて、若月には感謝です。

最後に登山口にあった伝言板に周りのノリノリのコメントの中、超おカタいコメントを残して帰りました。(笑)

コメント(ここだけ若月)

塩見バットレスは事前情報に乏しく、「次に何が出てくるんだろう??」というワクワクを常に感じることができ、素晴らしい時間でした。

自分はこうした冒険的な山行が大好きですが、実力が伴って初めて許される行為だと思います。真達さんに声をかけて頂き、2020年冬の農鳥岳滝ノ沢,2021年冬の聖岳西面B沢に続き、本山行が成功したことは嬉しい限りですが、今の自分の実力から考えれば、「連れて行ってもらった」のだということを忘れてはいけないと思います。聞けば、真達さんは学生時代に人工を含む冬壁登攀を経験し、フリー全盛の時代になった後は、1年近くドライツーリングの練習を毎週繰り返した(!)のだとか。「継続は力なり」とは皆言いますが、それを実践することは誰にでも出来ることでは無いと感じます。

山登りは自由なほど楽しい遊びで、その自由を生むのは体力と技術。熟達者の登攀を肌で感じた幸運に感謝しつつ、身の丈に合った訓練を重ね、山をもっと楽しい遊び場にしていきたいと強く願います。

…という感じで少しづつ練習しますので、真達さん、またよろしくお願いします!(来年はどこ行きましょう??)

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